第1回シンポジウムを開催しました

2019年1月12日(土)に、九州大学バリアフリーシンポジウムシリーズ『九大バリアフリースタンダードが社会を創る』の第1回を開催しました。今回は本研究会のキックオフシンポジウムとして、これまでの九州大学の障がい者支援の取組みや、本研究会の理念とミッション、新たに始まった取組みについて紹介しました。


■ 基調講演

基調講演のゲスト講師には、九州大学芸術工学研究院の鵜飼准教授を迎え、アートを通した障がい者支援の取組み「だんだんボックス」の活動を紹介いただきました。大学着任時の引越しの段ボールと障がい者アーティストが描いた絵のクリアファイルが重なり、だんだんボックスのアイデアが生まれた逸話や、そもそも障がいがある方は、大変素晴らしい魂の持ち主であり、障がいという重荷を背負うことを選んで生まれてきた大変強い魂の持ち主であるという米国の精神医学者ブライアンワイス博士の言葉を紹介いただきました。また、だんだんボックスの活動を通して自らの仕事が社会に認められたことで「社会の一員になれた。生きててよかった」と号泣した55歳の障がい者アーティストの方の話、「これまで知的障害があることを世間から隠すように生きてきましたが、この子を産んで良かった」と語った83歳のお母さまの話など、とても胸を打つ取組みを紹介いただきました。バリアは障がい者の方々にあるのではなく、障がいを知らない我々にあるのだと、あらためて強く感じるご講演でした。


■ クロストーク

後半は、鵜飼准教授を交え、研究会の樋口准教授をモデレーターに、鶴崎准教授、須長准教授、横田准教授が登壇し、クロストークを開催しました。鶴崎准教授からは都市デザイン・建築デザインのハード面から、現行の基準よりももっと障がい者の視点に寄り添った計画の必要性が語られました。丘陵地につくられ坂の多い伊都キャンパスを対象に、経済的な実現可能性を鑑みながら新しいアイデアでバリアフリー空間を整える取組みは、とてもチャレンジングで意義があると語っていただきました。須長准教授からは、カラーユニバーサルデザインの観点からお話しいただきました。色は情報手段として多用され、色覚異常により就けない職業や学べない分野があること、解決策としてのカラーデザインの可能性を語っていただきました。横田准教授からは、現在学生においても全国的に増えている病虚弱、精神障がい、発達障がいなど、目に見えない障がいに対するバリアフリーの必要性についてお話しいただきました。また、九大バリアフリースタンダードの実現に向けて、ハード面のバリアフリーだけでなく、使う人の心のバリアフリーを実現していくこと、支援を必要とする人の声を理解し支援できる人を育てていくことの重要性を語っていただきました。


■ 参加者の方々の感想・ご意見

クロストークを受けて、会場からは様々な感想やご意見をいただきました。

長くデザインの現場に携わってこられた実務家からは、多様な視点からの議論を踏まえて社会実装することが重要で、その過程でいかにフィールドワークを実施して現状に寄り添うことができるかが大切と語っていただきました。

公共施設のバリアフリーデザインを手がけたデザイナーからは、北欧の大学で講義をした際、聴講者の三分の一が障がい者であったことから、おそらく大学の障がい者率は社会の成熟度に比例しているのではないか、九州大学の中に車いすがあふれて、視覚障がい者があふれて、それが理想であり、日本の社会を成熟させると、お話しいただきました。

車いすユーザーのデザイナーからは、バリアフリーの姿勢について語っていただきました。自分からより社会に溶け込んでいく、社会に入っていく、社会の人もそれに理解してもらう、難しいかもしれないが、これからどんどんやっていくべきであり、研究会の取組みに期待しているとのご意見をいただきました。以前の障がい者教育では就く職業が限られていた。下肢不自由のため技工士など手を使う仕事に限られたが、いやでデザイナーになった。自ら社会に溶け込む大切さを語っていただきました。また、現在のヘルパーは、ヘルパーという立場より友達として生活を共にしていること、そうやって楽しい生活を送っていること、心のバリアフリーの大切さをお話しいただきました。

精神障がいの当事者であり、介護事業所を営む方からは、障がい者を取り巻く一番の問題は差別であるとご意見をいただきました。障がい者からすると、負担が過剰な場合は配慮しなくても良いという合理的配慮は、差別を残すもので、障がい者にとっては有害な考え方である。そもそも障害者権利条約の原文ではreasonable accommodationであり、合理的配慮という訳はおかしい。韓国では正当な便宜提供と訳しており、差別をなくすという視点を大事にして欲しいと語っていただきました。


今回のキックオフシンポジウムでは、研究会にたくさんのご期待をいただきました。九州大学バリアフリー検討研究会は、障がい者の視点に立ち、バリアをつぶさに探し、解決策を考えて参ります。これからも開かれた議論の場をつくり、研究会の取組みを広く社会の皆様と共有したいと考えています。

九州大学 らくちんラボ

(旧 九州大学キャンパスバリアフリー検討研究会) ~すべての人が区別なく生活できる共生社会を目指して~

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